PSYCHO-PASS サイコパス 総合:☆☆☆☆☆
興味深い内容に、自分は短期間で何回も繰り返し観るほど、楽しめましたが、人を選ぶアニメであるのは確かです。好き嫌いがはっきり分かれそうです。
ミステリー要素が強いので、初見が一番インパクトがあり、そのインパクトが強すぎるが故に、人を選ぶと感じました。自分の中でも最初に観た時は、途中途中で評価が揺らいでいましたから。ただ、SFとしても楽しめるので、何回見ても興味が尽きず、結局、埋没させるには惜しい特異なアニメのため、☆5としました。
円盤ですが、ukからの輸入盤(ブルーレイディスク)では珍しく、本編のsubtitleを消すことができます。多くの場合、英語の字幕は消せないので、この一点で輸入盤を買うメリットは大きいです。op/edのtitleは英語表記ですが、22話、non-title op/ed、数話のオーディオコメンタリーなどが付いて¥3,800-弱。この位の値段にしてくれると、手を出し易いんですけどねえ(輸入盤ブルーレイディスクを購入する際にはリージョンにご注意を! たいていの場合、通常の日本のブルーレイプレイヤーでは視聴できません。バレエのブルーレイとかはリージョンフリーなんで気にならないのですが、映画、アニメでは、まず間違いなくリージョンが指定されています)。
Production I.G制作のオリジナルアニメ。
2012年10月スタート。全22話。30分アニメ。
日本・米国ではNo Ratedですが、英国では15。
自分は英国を支持しています。
かなりのバイオレンスですからご注意ください。
続編として2期11話と劇場版があります。
また、2期放映前に、このアニメを再編集した新編集版があります。
新編集版はアーバンに若干の追加が施されたもののようです。
2期と新編集版も観ましたが、2期は似て非なるものだな、との印象です。確かに後日談を観たくはなりますが、ストーリーの重みに差を感じており=脚本家の差だと考えます。自分はこちらに好意的です。例えるなら押井守監督アニメ映画「
攻殻機動隊」とテレビアニメ「攻殻機動隊 S.A.C」との違い(違いすぎるかな)に近いと。ちなみに攻殻機動隊についても自分は押井守監督のそれに好意的です。2.0は詐欺ですが。
新編集版は、オリジナルの不足分を補完したかったのだな、とは思うものの、余計な講釈を追加したなあと感じました。
・ストーリー
人間の心理状態や性格的傾向を計測し、数値化できるようになった世界。
あらゆる心理傾向が全て記録・管理される中、
個人の魂の判定基準となったこの計測値を人々は、
「サイコパス(PSYCHO-PASS)」の俗称で呼びならわした。
数値の中に、人々の安全を守るための指標・犯罪係数が存在した。この犯罪係数が規定値を超えたものを潜在犯(犯行に及ぶ可能性がある。社会としての脅威)として特定し、犯行に至った、まだ法を犯してはいない、に関わらず、その超過の程度により、強制セラピー、麻痺による逮捕拘束隔離、社会からの消滅(処刑)、のいずれかを確定、裁くことで、社会を浄化せしめ、日本国家は人々の平和を保っていた。
この潜在犯を検知する監視網は、日本中に張り巡らされており、「シュビラシステム」により集中管理されていた。潜在犯に対処するのは人の手に委ねられていたが、その判定は、「シュビラシステム」の拳銃型リモート端末「ドミネーター」で制御されており、人はただ、対象者に向けてトリガーを引く裁量しか与えられておらず、「ドミネーター」による法の執行は「シュビラシステム」の決定に従うのみだった。
現地に赴く人間は「厚生省」の管轄下にある「公安課」の刑事だった。ただし、刑事には2種類いた。ひとつは監視官と呼ばれる正規の公安課の職員。もう一つは、本来は潜在犯だが、潜在犯ゆえ、法を犯すものを探し出す嗅覚を「シビュラシステム」に見込まれた執行官。執行官が犯人を追い詰め、トリガーを引く正当性を監視官は監視、統率することで、潜在犯に対処していた。
雨の降るある日、犯行現場に新人監視官・常守朱が到着した。「シュビラシステム」を介して見る未来の社会への向き合い方、そして人としてのあり方を、彼女の監視官としての成長を通して考えさせられていく物語。
何かと、かっこいいと一言で評されるアニメです。たしかに、自分も
文豪ストレイドッグスや
東京グールでは同じ表現を使うものの、攻殻機動隊や
イノセンスにはそう言う表現は使いません。それは前者はファンタジーであるのに対し、後者はSFだからです。そして、このアニメはSFです。なので、かっこいいで逃げてはいけないアニメであり、SFに対しては、その未来観の設定の好悪で感想を述べるべきだと考えます。
虚淵玄の語る世界観は、ヒールこそ正義。正義こそヒール。この価値観は、まどマギでも垣間見られました。清らかな水の中では人は人として生きられない、だから正義の虚をついて、人としての最善な世界を構築していく。正当性より必要性に重きをおく価値観。これを破綻なく提示してくれる手腕は卓越しています。
気づかれてもいないのに止まれってベテランのくせに間抜けとか、ヘタレな監視官とか、人の幸せを提示してくれるシビュラシステムなのに潜在犯が生まれるのは変とか、挙げればきりがない否定文を見かけますが、概ね、ちゃんと最後まで観ていないか、読解力がない攻撃ばかりです。いちいち提示しませんが、それぞれのキャラの行動原理、世界観の設定に綻びは殆どないです。なので、否定的な感想のほとんどは、各キャラの行いや設定に、自分の善悪を重ね、好き嫌いの感想を述べているにすぎません。そう言った感情は、自分の目で確かめる事でしか、正解は得られないと思います。
それだけだと不親切なので参考までに。攻殻機動隊、イノセンスが受け入れられるのであれば、このアニメの近未来も、SFとして受け入れられる可能性が高いと思います。また、展開などは、デヴィッド・フィンチャー監督やブライアン・デ・パルマ監督らのハリウッド映画を楽しめるのであれば、このアニメも楽しめると思います。逆にこのアニメが好きな人には、デヴィッド・フィンチャー監督「セブン」をお勧めしたいです。
法が人を守るのではなく、人が法を守るのです。
虚淵玄、フィンチャー、デ・パルマの共通項は、人生にハッピーエンドなんて無い、です。
・演出
アニメでしか表現できない演出であり、総合芸術としてまとまっていました。
細かい部分なのですが、後半の追跡劇。奇跡のような展開なので、一歩間違えば、御都合主義に見えるはずなのに、卓越した観察眼とプロファイリング能力を使い、見ただけでその人の全てを言い当てるシャーロック・ホームズのような芸当を見せる人物を絡ませる事によって、推理の正当性を疑われないように誘導する演出はスマートだなあと感じました。
・作画
必ずしも安定してキャラが作画されていたわけではないし、アクションに不自然な部分がなかったわけではないのですが、等身大の人物で描かれるテレビアニメとして、円盤買っても後悔しないレベルにはあると思います。ドミネーターの造形美が良かったですね。美術もすごく描き込まれている上に、暗い雰囲気をよく表現していました。
・音楽
2クールものなので、前半と後半でOP/EDを変えてますがあまり違和感なかったです。前半のOPが好きだったのもあり、変えない方が効果的じゃなかったかなあ、とは思いますが。サントラは劇伴としてシーンをしっかり支えていて、変な感じになることはなかったです。
・演技
関智一さん、石田彰さん、伊藤静さん、沢城みゆきさん、野島健児さん、相変わらず流石なのです。櫻井孝宏さん、役にはまってます。そして、有本欽隆さんの朴訥とした喋り方は、回が進むごとに味わい深くなっていきます。
ですが、何と言っても花澤香菜さんでしょう。新人監視官としての頼りなげなスタートから、優しさの中に芯の強さを見せ始め、ベテラン刑事の思考が憑依したかのような転生まで果たす成長ぶり。これを見事に演じられています。そして感情が高ぶった時の迫力あるシーンだけでは無く、作画と演技とのリンクがハンパないです。そんな中でも特に印象に残ったのは、沢城みゆきさんとの演技の中で、「そういえば、最近愚痴ってないな」のくだりです。ここの演技は二次元であるはずの常守朱が実体を持っているように錯覚しました。
「それは、法の執行ではありません。殺人者を二人に増やすだけです。」
これを自分ごとにも適用できる強靭なメンタル。それが監視官・常守朱です。否定したくなるのも無理はないですが、それは制作の術中にはまっています。