2018年11月4日日曜日

さよならの朝に約束の花をかざろう(映画)

さよならの朝に約束の花をかざろう 総合:☆☆☆☆☆

語り尽くされた親から子への愛情の物語を長命な種族の視点から描くことで、その感情の原点にあるものをより鮮明に浮き上がらせた劇場用長編アニメです。

・ストーリー
見た目が少年少女のままで何百年も生きることができるイオルフ。その血を求めて襲いかかってきた人類に、イオルフの村は壊滅させられます。そして、捕らえられたり幸運にも逃げられたりした少女たちが出会う、母親から子への愛情の物語です。

・演出
母親から子への愛情、子供の成長の過程で起きる親子の関係の変化について、全く真新しいものはないです。淡々と普通にあり得る出来事で過ぎていきます。ただ、通常のドラマでは、死という突発的なイベントで親子の間にあった感情を際立たせるところを、このアニメでは、淡々と過ぎる日常を維持したまま、老いないことによる影響によって徐々に際立たせていく点が新鮮です。ヒロインが一般の親に起きる普通の感情を表現したとしても、それが、普通に見えなくなってくるのが、このアニメの設定の妙でしょう。
長命種の視点でじっくりと人の一生を描ききった作品はあまり類を見ないです。長命種と短命種の恋愛関係みたいなものなら映画「ぼくのエリ 200歳の少女」とかの吸血鬼モノであるけれど、人の一生を描き切ってる感じではないし。最近ですと、聲の形で一躍有名になった大今良時さん(この方も女性です)連載中の漫画「不滅のあなたへ」などは、長命種視点なのですが、現実世界の日常をテーマにしている「さよならの・・・」とは異なる方向性であり、そして、あったとしても大抵はモチーフがリアル方面に回帰しないです、せっかくのファンタジーからわざわざ。
たとえば一見リアルな「君の名は。」。新海誠監督自ら言ってますが、このアニメのテーマは「人生には運命の人っているんだよ」です。でも「君の名は。」の場合、そのファンタジーの世界から、リアルの世界には帰って来づらいんです。あくまで「君の名は。」の入れ違いが起きるという世界観の中で収束してしまう感じなんです。いや、いいんです、ファンタジーなんですから、それはそれで。もっとぶっ飛んでるとわかりやすいと思うのですが「指輪物語」のテーマが日常に置き換わったりしたら、むしろ幻滅です。
ところが、岡田麿里さんの作品では、これが今過ごしている自分の世界と地続きにあるような錯覚を感じさせてくれるのです。たぶん、テーマがより身近なものだから、なのかもしれませんが、それをあえて仮想世界を舞台にしてひときわ印象深くする手法は、相も変わらずお見事だな、と思います。
エンディングがハッピーなのかバッドなのかも、いつも通り観る方に委ねられています。余韻はいつも通りの岡田節です。
ちなみにいくつかの母親から子への愛情が描かれているのですが、メインストリームは母性愛、ではありません。父親が子供に持つ愛情にも通じる設定です。この辺の一捻りもさすがです。
さらに、一番最初に提示される母親から子への愛情の描写は、ヒロインが、赤子を引き剥がすところで示されており、この描写ものちに回収されることで、あらためて母親から子への強い愛情を再認識することになります。この愛情表現も正直、他のドラマで嫌って言うほど言い尽くされているはずなのですが、こういう演出で、違う形で表現できるところが、岡田麿里さんなんだな、と思います。
まあ、母親が必ずしも子供を取らずに男に走る場合もリアルでは普通にありますから、万人に受け入れられる作品というものは存在しないとは思いますが、特に子供のいる親にはヒロインに感情移入できる方は多いのではないでしょうか。
蛇足ですが、シナリオの冒頭の展開が、偶然に偶然を積み重ねて作り上げられていることに拒否反応を示す方もいるようです。太宰治だって浦島太郎にケチつけまくっているんですから、ありえないと感じちゃったら、確かに観続けるのは難しいですよね。でも、2時間もののファンタジーですからねえ。自分には、映画アニメ、フィクション、ファンタジーものとして、十分に許容範囲の出出しでした。

・作画
さすがの劇場用。キャラの安定感も動画の自然さも特に文句ないです。キャラデザインはゲーム・ファイナルファンタジータクティクスの吉田明彦さんです。特徴ある優しい顔立ちなので、すぐに気づくと思います。

・音楽
テロップで川井憲次さんと発見してワクワク。ただ、攻殻機動隊で西田社中を使った素晴らしい楽曲群に比べると、あくまで、シーンに寄り添った楽曲群になっています。王道の映画ミュージックで、ゆえに感動的でした。
音声は映画なので5.1ch。思い出の子供の声が四方八方から囁きかけてくる演出は良かったです。

・演技
平田広明さんが要所で自然な名言を吐きますねw
ヒロインは石見舞菜香さん。「多田くんは恋をしない」のテレサ・ワーグナー役よりずっと良かったです。もう一人のヒロインは茅野愛衣さん。ほんとすごい仕事量だな。活発な女の子と絶望した女の子の両極端な役回りを見事に演じ分けています。佐藤利奈さん、沢城みゆきさん、日笠陽子さん、久野美咲さん、この辺の人たちが脇にいてくれると、しっかり物語を支えてくれるからうれしいです。男性陣は入野自由さん、梶裕貴さん、杉田智和さん、細谷佳正さんら。こちらも揃って安心です。確かどっかでも聞いたことある声なんだけど、子役がちょっと不自然だったかなあ。それ以外は文句なしです。

テーマ、設定、世界観、ほんとに何も真新しいものがないものを組み合わせて、よくもまあ、これだけ感動的なアニメに仕上げられるもんだ。つまりは、母子はそれだけでドラマティックだ、てことなのかもしれませんね。

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