やがて君になる 総合:☆☆☆☆☆
連載中の漫画をアニメ化。漫画は既刊既読。
2018年10月スタート。全13話。
・ストーリー
誰かを特別な存在に感じることができなかった小糸侑。中学卒業の日にボーイフレンドに告白されます。断れずに保留したまま進学した高校で、美しい先輩・七海燈子が校舎裏で告白され、さらっと断っている場面に出くわします。女性を含め何人にも告白され、その度に断っているという燈子に侑は理由を尋ねます。
「だって今まで好きって言われてドキドキしたことないもの」
自分と同じ感性を持ち自分の気持ちを理解してもらえるかもしれないと思った侑は、思い切って塔子に相談します。
「好きにならなきゃいけないと思ってつらかったんだね」
「大丈夫だよ。彼が気持ちを伝えてくれたみたいに、君もちゃんとそのままを伝えればいい。」
「「君はそのままでいいんだよ」」
気持ちが吹っ切れた侑はボーイフレンドだった彼に付き合いを断ります。
しかし、そんな様子を見ていた燈子は、侑に言います。
「君のこと、好きになりそう」
燈子は自分のことが嫌いでした。『自分の嫌いなもの(燈子)を好きだという人を好きになれない』燈子にとって、誰にも特別な気持ちにならない侑なら、好き嫌いと違うところで受け入れてくれそうだと思ったからです。
自分と同じだと思っていた燈子の豹変に侑は
(この人が何を言っているのか、わからない)
と戸惑いを見せますが、燈子を知るにつれ、自分にとっての特別にも気付き始めます。でも、そのことを言うと破綻する。侑のジレンマが始まるのと同時に、
『自分の好きなものを嫌いだって言わないでよ』
と、今の燈子のあり方に反発する心が芽生えます。
そして、侑は、燈子が最初にかけてくれた言葉に、先輩こそ気づくべきだと、強く思い始めるのでした。
・演出
原作、好きなんです。でも、このアニメが描く原作の世界を観て、いままで自分は本当の意味でのこの作品の魅力に気づいていなかったんだなあ、と感じました。それほど、このアニメ化、自分は感動しました。こういう印象を与えてくれたアニメは今までなかったので、この一点だけで☆5です。なので、他人から見たら、甘い、と思われるかもしれませんね^^;
アニメーションならではの空気感、間の取り方が絶品で、とても詩的で美しいです。ストーリーの所で書いたようなことをストレートに観せない演出が詩的なのです。小学校の頃、作文を書くときに、嬉しいとか悲しいとかの言葉を使わずにそれを表現しろ、と言われたことを文章を書くときにいつも思い出すのですが、このアニメ、まさにそんな感じで必要最小限のことしか言わないです。まあ、この点に関しては原作からしてそうなんですけどね。
問題はエンディングです。連載中の漫画なので、それを知っている自分ら原作ファンは、これから、を知っています。ですから、どう頑張っても、ここまでか、という印象になってしまいがちなのは否めません。しかし、ほぼほぼ原作通りの進行の中、ほんのちょっとした最後のアレンジで、ストーリに書かせていただいた内容をふわっとまとめ切っているのではないかとも思います。化物語、自分は12話が最終話だと言われても、あの星空を二人で眺めるシーンでの終わり方で、十分満足です。もちろん15話まで観る方が良いのですが、「やがて君になる」の終わり方も、この化物語と同じような印象を、初見の人には与えることができているのではないでしょうか。それもこれも、全編を詩的なアプローチで昇華した、このアニメの演出だったから、許容範囲で着地できたんじゃないのかな、と思います。制作からしたら、そこまで見越した演出で、計算通りのエンディングだったのでしょう。「ささめきこと」その他の連載中漫画原作のエンディングは、原作とは違う方向でまとまってしまいがちです。このアニメでは原作の方向そのままで描き切っています。それだけでも、ファンには納得の終わり方です。
・作画
描き込み具合は劇場用に力を入れて作られた作品には劣りますが、構図、動き、安定感、テレビアニメとしてかなり優秀だと思います。むしろ原作に忠実と言っていいでしょう。それでいて、二人の間に流れる空気感の表現、キャラクターの表情がとても魅力的な作画でした。こういう表現を使えるところ、アニメは漫画より有利ですよね。はっきり漫画を超えたアニメにしてくれていて良かったと思います。
・音楽
詩的な雰囲気の演出をバックでサポートしているのが大島ミツルさんのサントラ曲でしょう。とても綺麗です。OPはアニメーション含めてとても良く(よくありがちな、オープニングだから本編より力の入った作画をしている、という意味ではありません。ほとんど本編と作画のクオリティは変わらないです)、EDも二人の関係をよく表していて、ちょっとハウスクラブ系のポップな曲調も良いです。本編の雰囲気と少し違うんですけど、まあ、それでもこれがいいんじゃないかな、と思えます。
・演技
侑役・高田憂希さん、燈子役・寿美菜子さん、そして、佐伯先輩役・茅野愛衣さん。もー、役にバッチリ、演技も素敵でした。
演技もそうですが、総合芸術!と思えたワンシーンの一例に、演劇の読み合わせの場面があります。
燈子は前日、慕う姉に自分の知らない一面があることを知り動揺して役に臨みます。寿さんは、その動揺を劇中劇の主役に憑依させ、その凄まじさを、返すセリフをわざとちょっとだけ棒読みにして演技素人を演じた野上翔さんが後押しし、静まり返る絶妙な間を演出がさらに底上げし、ちらっと盗み見る様な佐伯先輩の表情を作画がさりげなく感情を晒して見せ、茅野さんがほんの少しだけ震える声を使って僅かに怯んだ表現でダメ押しする。
思わず見入ってしまいました。
走攻守三拍子揃っているので、百合にアレルギーがなければ、この雰囲気の中に浸れるんじゃないでしょうか。
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