2019年8月24日土曜日

幼女戦記 映画版

幼女戦記 映画版  総合:☆☆☆☆☆

2019年2月公開の劇場用アニメの感想です。ブルーレイでの視聴です。
小説(ラノベとは呼べなくないか?この重厚感は^^)が原作。本編約98分。
テレビアニメ版の続編であり、テレビ版を繰り返し観ていますので、純粋にこれ単体での感想を語る資格はありません。
ただ、これだけを観るのはちょっときついと思います。ヒロインのターニャとは何者なのか、帝国とは、この戦争とは、第203魔導大隊とは、の説明がなされていませんので、テレビ版を観ていることは必須、だと感じています。ゆえに、☆の数はあくまでテレビ版から観ている方向けの指標です。逆に、テレビ版含めて続けてご覧になることをお勧めできるアニメ、とも言えます。ただし、小学生以下は観れません^^; PG12指定です。


・ストーリー
アーバンはテレビアニメ版のエンディングの続き、南方戦線での第203魔導大隊の活躍から始まります。そして、共和国・協商連合からの火の粉を振り払ったと思いきや、新たに帝国への侵攻を開始した連邦との緒戦についてが描かれます。この時、多国籍義勇軍として連邦に派遣された部隊に、テレビアニメ版終盤の回転ドア作戦内斬首戦術後の第203魔導大隊を急襲し、初めて大隊を窮地に陥れた元協商連合の故アンソン・スー大佐の一人娘で合衆国に亡命していたメアリー・スー准尉も含まれていました。怨讐のメアリーvsターニャの物語の始まりでもあります。

・演出
戦場の真に迫っている、とは言えません。狂気をよく伝えてくれてはいますが、それでも戦争を舞台とした娯楽作品です。架空世界とはいえ、現実に近いif世界のような位置付けなので、リアルと錯覚しがちですが、そこは割り切ってきちんと観れる世代向けのアニメになります。その上で、最終的にこの行き場のない戦場に立たされ、生き残るために死力を尽くす兵士たちの悲哀が描かれています。圧倒的な物量の前にひれ伏しそうになる状況は、先の大戦の枢軸国側の悲劇を連想します。魔力がつき最後は銃剣で戦闘機に立ち向かう、ナイフでの白兵戦にまで追い詰められる演出は、判官贔屓も相まってヒロイン側に感情移入しやすくしています。
東部戦線に送り込まれる際のウーガ中佐の表情など、言葉にしない細かい所作、敵が聞いたら激昂するであろうターニャのウィットの効いたセリフ、生まれ変わる前の世界における記憶をうっかり口にして周りにポカンとされたりなどの言葉での表現との組み合わせによって、根拠や状況や心情が上手に伝わるよう、よく考えられた演出だなと思います。
一つ気になるところを挙げるとするならば、(実はターニャ以外もよく使う)「どうしてこうなったー!」が決め台詞なんですが、こうなった原因の『ターニャと周囲との思惑のすれ違い』は、原作や漫画と違い、あまり効果的に演出されていないのが、アニメ版の最大の短所かもしれませんし、そうすることで戦争を茶化し過ぎていない印象を与えているのは長所かもしれません。ここはひょっとすると賛否が分かれるところかなあと思います。
ターニャは周りの人から度を超えた好戦的な愛国者と思われていますが、ターニャ自身は厭戦的で保身を優先する寧ろ極度な合理主義者です。そこへ、自分の生存はおろか、上官の指示や周囲の迷惑をも顧みず、親はもとより味方に仇なす悪魔を滅することしか眼中にないメアリーの登場。全く非合理です。徹底した戦闘行為を繰り返し続ける常軌を逸した彼女と本来のターニャとの対決がこの映画の最大のテーマになっています。仇が幼女と知っても全く念頭におくことなく復讐に些かも躊躇しない少女メアリーに躊躇するターニャ。戦闘中、ハッと気づき冷静に合理的に考え直し、決断するターニャでさえ、突き進めなかった壁をいとも簡単に超えてくる狂気には、完全無欠の合理主義者でさえ勝てないのか?という極端な対決を演出・作画・音楽・演技で観せてくれていて、物語の中に引き込まれます。観たのは休日の昼下がりという一番眠気を誘う時間帯だったにも関わらず、全く目を逸らすことが出来ませんでした。
本当は信仰も絡んでくるんですが、、さすがにそれも踏まえた感想を述べるのは危ないw

・作画
もともとテレビアニメ版も良かったのですが、さらに描き込まれていますしよく動きます。メアリーvsターニャの一騎打ちもアンソンvsターニャ以上に迫力を増しました。キャラデザとしてはターニャの顔がちょっと濃くなったかな。でも、コーヘン少佐に見せた笑顔はかつてなく可愛かったです。ヴィーシャは少し可愛くなった気もw。ケーニッヒ中尉もちょっと顔がきつく修正されたようです。と幾分違和感もありますが、基本的にはテレビアニメ版から安定継続してくれています。

・音楽・音声
代名詞でもあるテーマ曲はそのままにいくつか新曲が追加された音楽です。楽曲単体としても聞き応えがあるのは相変わらずです。
そしてなにより音声DTS HD MasterAudio5.1chの威力はすごい。テレビアニメ版のブルーレイの重低音もかなり迫力を増した音声に修正されていてびっくりしたものですが、劇場用に作った5.1chは更に効果的に魔力の威力の違いによる恐怖を見せてくれるものでした。

・演技

ターニャ役は、どんなアニメでもエンドロールを見るまで出てたのか出てなかったのか油断ができない七色の声を持つ悠木碧さん。この映画ではテレビ版にあったような妖怪じみた表情をすることがない反面、戦闘中に圧倒的な敵を目の当たりにして考え込む場面が多く、理屈っぽくシリアスで少しニヒリストっぽい、鼓舞することはあっても激高することが少ない演技で、ターニャが実は冷静な合理主義者であったと意識し直すことを助けてくれました。そう、テレビアニメ版では「幼女の皮を被った化け物」が前面に出ていて、その狂気が印象に残りやすかったのですが、実は狂気とは違うんでした。それはテレビアニメ版でも第一話でネガティブにこの表現を使ったレルゲン(cv.三木眞一郎さん)が最終話ではポジティブに発声していたことも思い出させてくれました。

メアリー役の戸松遥さんも絵柄に合わせた声色で演じ分けができるすごい人です。今回は少女としての声での狂気の演技が凄まじかったです。チャラい女子高生やらせても、うざい女子高生やらせても、名古屋訛りな女子高生やらせても、鬼の少女をやらせても、その役になりきり、期待した通りの感情が沸き起こるように観る者を誘導する演技力は自分的御三家(ちなみに花澤香菜さん、悠木碧さん、早見沙織さん)の3人に絞り込むのはやっぱり無理ゲーだったなあと、この方の演技を観る度に思わせてくれます。

連邦の列車砲を評して「でかい、もろい、よく燃える、まさに完璧な標的ですねー。」新兵になってからずっとターニャに付き従っていたためか、ちょっと感覚がおかしくなってきたヴィーシャ役には先の二人と対照的な早見沙織さん。もちろん違う声も使えるのですが、ヴィーシャは早見さんらしい唯一無二の相変わらずの優しい声で、ターニャよりずっと戦闘狂に近いセリフを飄々と、また成長した副官としてきりりとしたところも見せつつ、その演技力だけでヴィーシャたらしめる魔法をかけてくれます。これはこれで相当すごいと思うのです。
もちろん、他の声優さん方も期待に違わずだったのですが、映画版ではやっぱりこのお三方に尽きるかな。ツイッター用のアイコンもこの3人しか用意されていないしw

次はまたテレビに戻ってきますかね?^^

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